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通関士試験制度に思うこと


国際コミュニティ

代表取締役 寺尾 秀雄




 通関士試験制度は、昭和42年にそれまで賦課課税方式であったものが、現在の申告納税方式に
なったことにより、通関時の適正な実施を確保するために設けられた貿易関連では唯一の財務省
による国家試験であります。
 全国受験者数は毎年、約1万人であり最近の合格率は全国平均で7〜8%から10%前後(平成23
年度は9.9%)となっております。
 私はこの通関士試験と貿易実務試験に関する講座を社会人(及び大学生)を対象として明治大学
(駿河校舎)などにおいて10数年講師をしてまいりました。
 今回は「今後の通関士試験制度」に関して、日ごろ感じていることを一言述べさせて頂きたく存じ
ます。


1.国家試験として、よりバランスのとれた出題内容を願いたい

 現行の通関士試験は通関業法、関税法等そして実務(申告書作成、計算問題、分類等)の3科目
となっておりますが、数年前より、業界人の合格を優先させるためにあくまで噂ですが実務問題の
難易度が高められています。これに対する対応策は色々考えられていますが、そのことよりも本当
にこのままの傾向が続くことが望ましいものなのでしょうか。
 例えば、2〜3年に1度は、いわゆる「足きり」を現行の60%を50%位にして、3科目のトータルで
何点とれたかで合格者を決定する等して全3科目受験者(経験者は最も難関とされている実務の
科目が免除されています)をも考慮するという奥深さを示すべき(難易度を下げるということでは
なく、出題傾向と採点のあり方を工夫してほしいという意味)であります。今のままでの採点等の
あり方は片寄っているという疑問を感じております。


2.将来的には「通関士のあり方」を検討したい

 我が国における通関士の役割は、通関業者において輸出入申告書等を審査するという作業が
主であり、通関士として独立開業することはできません。しかしながら現場においては、通関を
中心とした貿易関連のアドバイスをもできる人材が必要とされています。
 お隣の韓国では、そのような役割を果たすことのできる「関税士」という独立開業も可能な資格
がすでに存在しています。具体的には、日本の通関士試験内容に、貿易実務や貿易英語そして
税務知識等が付け加えられていると聞いております。従いまして現場のニーズにより対応(貿易
に関するコンサルタント等が)できる通関士制度とすべく、我が国においても、一部科目の修正を
してはいかがなものか、以前より痛感しております。


3.現行では、個々に取組むしかない

 将来、通関士試験制度がもしもそのような方向に近づいて行ったとしても、来年からという訳には
いかないでしょう。
 もしも、若い方々がこれから先、または現在、貿易関連の仕事に興味を抱いているのであれば、
次のことに時間を割いてさらに精通して頂きたいと願うものであります。

  (1) 貿易全体(契約、通関、保険、決済等)の把握
  (2) そのうちの1つの専門性(国家資格としては通関士)を身につける
  (3) 英語(または第2外国語)の力を向上させる
  (4) 税務面 and/orマーケティングの基礎知識を理解する
  (5) 最も興味のある国に目的意識をもって実務を行ってみる


 通関士試験制度の話から、少し内容が広がりましたが、貿易関連の仕事をゲットしたい方にとって、
貿易実務の学習からスタートし、必要に応じて通関士and/or税務関連の資格を取得し、そして語学
にもチャレンジしてみることは、これから先も益々やりがいがあり、かつ、興味があれば面白いこと
でもあると思われます。若いうちから上記を準備しておくことにより、将来それを活かす機会がきっと
出てくるものです。
 最後に上記(1)〜(5)に関しての優先順位は人により異なりますが、貿易関連における専門性の
1つとして、通関士試験(通関)等に興味を抱く方は少なくありません。通関士試験は半年ほど(自宅
学習500〜600時間)の努力により受験することが可能となります。貿易業界への初めの一歩、または
二歩として、現行の通関士試験(あるいは貿易実務試験)に近い将来チャレンジしてみて下さい。
私の講座にいらして頂ければもちろん大歓迎です。

 ご参考
  厚生省発表の企業が求める人材の要因
  1.コミュニケーション能力
  2.基礎学力
  3.責任感
  4.積極性
  5.ビジネス・マナー
  6.行動力
  7.資格取得

 上記のうち1〜6は、若干抽象的であるとすれば、7の資格取得が比較的具体性を持っているように
思われます。


以上



 寺尾 秀雄(てらお ひでお)

  中華航空、且對商会(貿易会社)勤務後、河合塾、早稲田大学エクステンションを経て現在、
  牛総ロコミュニティ代表取締役、国際コミュニティ学院学院長および明治大学、学習院生涯学習
  センターの公開講座において通関士講座、貿易実務講座、厚生労働省雇用対策講座の講師を
  務める。

  (財)日本関税協会会員、日本貿易学会会員、国際ビジネスコミュニケーション学会会員、
  貿易スペシャリスト認定試験委員。

  主な著書に『通関士試験得点源の解説』『通関士試験得点源問題集(一ツ橋書店)』
  『貿易実務ガイドライン』『貿易実務の指針』『貿易取引初級教本(共著)』『貿易ビジネス
  英語初級編』等がある。

  講義は、「丁寧でわかり易く」をモットウとしており、各大学の人気公開講座のひとつとなっている。

 ホームページ
http://www1.cts.ne.jp/~kcc/